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悲しみの遺族ではなく、幸せな家族として。「エンディングドレス」

更新日:2023/04/21

大切なご家族とのお別れを、その人らしく見送るためのエンディングドレス。近年は宗教観にとらわれない葬送方法の選択肢も増えてきています。
今回は、エンディングドレスのパイオニアである株式会社ルーナの代表、中野さんにお話を聞きました。

この記事はこんな方にオススメです。

・お別れの時を良い思い出にしたい方
・事前に準備をしたい方
・葬儀について、どんなサービスがあるのかわからない方

■本記事の取材先

株式会社ルーナ さくらさくら

1958年福岡で編み物教室として創業。婦人服洋裁店、縫製工場などを経て現在はアパレルメーカーとして法人化。急逝した先代の葬儀がきっかけで、永年の服飾のノウハウを生かし、遺族の心癒す華やかな死装束を考案。2006年よりエンディングドレスブランド「さくらさくら」を通販している。終活や家族葬の一般化で参加型納棺が増えたため全国から生前注文が舞い込んでいる。

エンディングドレスとはどのようなものですか?

エンディングドレスは、大切な方を美しくお見送りするための、故人用の衣装です。昔ながらの死装束の習わしを踏まえ、家族への癒しを目的として「さくらさくら」というブランド名で17年前から通販をしています。
「エンディングドレス」という言葉自体も、元々は弊社で作った造語ですが、今では一般的にも通じる言葉として徐々に浸透しつつあります。

 

 

一説に江戸時代から伝わる、とされる仏式の死装束は白を基調としています。日本の死装束について「白布を以って服を製す」と随書倭国伝に記されていて「白は旅立ちや節目の色」と考えられてきたからだと思います。結婚式で白無垢を着ることや四国巡礼の装束が白であることもそのひとつかもしれませんね。弊社のエンディングドレスも日本の仏衣の習俗を一部取り入れて、白や淡い色を基本とし、お顔まわりが若々しく映えるデザインで、小物までご用意しています。伝統的な旅立ちの衣の意義を残しつつ、どなたにも似合い、着せやすい製品作りに努めています。

なぜ、エンディングドレスを作るようになったのですか?

弊社株式会社ルーナの先代社長でもある、私の父親の葬儀がきっかけとなりました。看取りに立ち会った病院で父を看取った時、突然のことでもあったので着替えを持っておらず、看取りに立ち会った看護師さんに言われるがまま、売店で売っている浴衣を着せることになりました。ですが父は普段、浴衣を着るような人ではなかったので、看取った後、浴衣姿の父にとても違和感を覚えたからです。それから、斎場へ運ばれた後、納棺師さんから納棺時に着る仏衣を紹介されたのですが、値段が違う、似たような仏衣の中から選ぶこととなり、ここでも大きな違和感を覚えました。そこに父らしさは無く、当然ですが一故人となってしまったことを突き付けられたようで、悲しい気持ちになりました。
なぜほかに選択肢がないのだろう、最後に袖を通すものなのに、なぜもっとその人らしさが感じられる姿で見送ることができないのだろう・・・。そう思ったことがエンディングドレスを作るきっかけとなりました。

その人らしい姿を大切にされているのですね。

そうですね。もちろん、従来の死装束文化にも大事な意義があります。仏衣一式のひとつひとつに意味があり、迷わずあの世へ行けるようにとか、生まれ変わっても幸せになれるようにと、人々の想いがつまっており、遺族が故人を送るにあたって必要な気持ちの整理や、死を受容するためには大切なプロセスだと、今まで幾度とご納棺させていただいた経験からも感じています。ですがその一方で、家族にとって、その方らしい前向きになれる葬送の仕方というのがあってもいいのではないでしょうか。

一遺族というより、いつものように家族として、ご本人らしい最期を過ごせるように、エンディングドレスが一つの選択肢となれば、と心から思っています。

エンディングドレスはどのような方が注文されているのですか?

エンディングドレスを注文される方は様々ですが、終活という言葉が流行った時期はご本人で、最近はご家族からの注文がほとんどです。特に娘さんからご注文いただくことが多いですね。お別れが近づいた時に、看護師さんからそろそろ着替えを用意するように指示を受けて、最期にしてあげられることは何かないか、長いことパジャマだったので元気な頃のように母らしくおしゃれしてほしい、という想いで、弊社の商品をご注文いただく方が多いように感じています。多くの場合ご本人はもちろんのこと、ご注文される方もご家族とのお別れに直面している場合が多いので、お別れの衣装であってもお別れを連想させないように、ウエディングドレスのデザインや素材を心掛けています。

 

私の想いとしては、「こんな華やかな衣装もあるんだね」とご家族でウィンドウショッピングを楽しんでいただく感覚で、エンディングドレスを選んでいただきたいですね。

ご利用者様へメッセージをお願いします。

私自身の闘病や家族の看取りにおいて、死と向き合う毎日は、この上なく辛い経験でした。気持ちの整理がつかないまま無理に準備をする必要はないと思います。けれど、残された時間の中で、決め事を先送りしてしまうと意に反した結果となりやすく、それでは後悔が残ります。ご家族で話し合って決めた明るい衣装からは明るい会話が生まれ、笑顔になり、ありがとうが自然に伝えられたとお客様の声が寄せらています。
悲しみの遺族としてではなく、幸せな家族として。有終の美を飾る「その人らしい」お別れの記憶を残すことは、その後を前向きに生きるためにも大事なことだと思います。

■編集後記

葬送の場は、結婚式や成人式と同じように、ご家族の大切な思い出として、ずっと心の中に残り続けるものだと思います。
大切なご家族との思い出だからこそ。きれいなものとして記憶したいものですね。
できれば、万が一の時が訪れる前にご本人も交えてしっかりと話し合っておくといいかもしれません。

執筆者:リブライフ編集部