「歴史的水準」原油高の今後は? ウクライナとガザ、2つの戦火が日本の暮らしを揺さぶるリスクに

2023年11月6日 06時00分
 イスラエル軍がガザで地上作戦を拡大するなど、イスラム組織ハマスとの衝突が激化している。昨年2月にロシアがウクライナに侵攻して以降、日本では円安も相まって原油高や物価高が続く中で、さらなる上昇要因となることが懸念される。ウクライナとガザ、2つの侵攻は日本の暮らしをさらに揺さぶりかねない。(砂本紅年、寺本康弘)

◆第1次オイルショック時より高い中東依存

 原油価格はガザでの衝突を受け、一時急上昇。その後は落ち着きを取り戻しているが、中東から日本などへ原油を輸送する際に、主にホルムズ海峡を通過するルートをとるため、周辺国も含めた動向次第では、再び価格上昇の恐れがある。
 特に日本の石油の中東依存率は2022年度に95.2%と極めて高い。石油危機以降、エネルギー安全保障の観点から一時は中東産油国への依存率を下げていたが、近年は上昇。22年にロシアによるウクライナ侵攻が勃発すると、ロシアからの契約を順次停止し、代替先となった中東の依存率をさらに高めた。依存率はちょうど50年前の第1次石油危機当時よりも高く、中東の地政学リスクへの懸念は増幅されている。

 中東依存率 日本で使われる原油は、アラブ首長国連邦、サウジアラビアを筆頭にクウェート、カタールなど中東産油国からの輸入が大半を占める。第1次石油危機のあった1973年度は77.5%だった。依存率が高まった背景には、日本では人口減少や省エネが進み需要が減少していることがある。中東諸国とは一定量を年単位で契約し、不足分をそれ以外の国から短期で契約する仕組みとなっていることも、消費量が減る中で、依存率を高める要因となっている。

◆「自国優先」の米中…輸入先を分散させたくても

 依存率を下げるのは容易ではない。中東以外の輸入先としていた中国や「グローバルサウス」に含まれるインドネシアなどは「自国の経済発展に伴い、自国での消費を優先するようになった」(石油連盟担当者)。米国も自国の消費量が大きく、輸送費の高さも障壁となる。ニッセイ基礎研究所の上野剛志氏は「分散させた方が望ましいが中東への依存率を大きく下げることは難しい」と話す。
 石油危機の教訓から石油備蓄は民間と国で計で236日分あり、石油連盟の木藤俊一会長は「石油供給が有事でたちまち損なわれることはない」と強調する。
 原油価格も一時よりは下がったが、産油国の減産もあって原油相場は高値圏で推移しており、今後の電気、ガス代への影響は予断を許さない状況だ。
 政府はロシアのウクライナ侵攻後、物価抑制策としてガソリン代や電気・ガス代を補助する支援策を打ち出し、来年4月末まで延長する。ガソリン価格は補助がなければレギュラーで1リットル200円を超えるところ、直近170円台に抑制。電気代も東京電力エナジーパートナーの試算では、政府の補助により平均的な家庭で月に約900円値下がりしているが、再び上昇圧力がかかる恐れがある。
 原油高は消費者物価指数も押し上げ、今年1月には生鮮食品を除く総合が前年比4.2%増にまで上昇。その後も3%前後で推移する。みずほリサーチ&テクノロジーズの井上淳氏は「現在の原油は歴史的に高値水準。イスラエル情勢の緊迫化は高値維持を促す」と分析している。

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