日本人が貧しくなった?「エンゲル係数」39年ぶり高水準 それでも日銀総裁は「消費はそんなに悪くない」

2023年11月1日 06時00分
 日銀は10月31日の金融政策決定会合で、長期金利が1%を一定程度超えることを容認する金融緩和策の修正を決めた。日米金利差の拡大から円安が進行し、身近な物価高に拍車がかかっているが、今回の修正が円安の是正につながるとは言い切れない状況だ。(寺本康弘、大島宏一郎)

◆「家計や中小の負担になっていることは認識」

植田和男日銀総裁(資料写真)

 「物価上昇が家計や中小企業の大きな負担になっていることはよく認識している」。植田和男総裁はこの日の会見で、物価高による家計負担が増し、一部で消費が慎重になっていると認めながらも、消費に関する経済指標を挙げ「そんなに悪くないと判断している」との見方を示した。
 消費は堅調とする日銀だが、家計の厳しさを示すデータは多い。消費支出に占める食料の割合を示すエンゲル係数は今年1~8月の平均で27.3%と、コロナ禍で消費支出が減って相対的に食費の割合が高まった2020年を除き、39年ぶりの水準に達した。
 消費者物価指数で見ても日銀が重視する生鮮食品を除く総合指数以上に、頻繁に購入する生鮮食品を含む食品などに絞った物価指数は上昇。9月は前年同月比9.1%の上昇で、比較可能な2011年以降で過去最高の上昇率だった。

◆「ゆとりがなくなってきた」がリーマン以来の水準

 第一生命経済研究所の熊野英生氏はエンゲル係数の上昇について「日銀がマイナス金利政策を続け、日米金利差が拡大しているため円安になり、輸入物価が上がっていることが原因」と指摘。「日本人が貧しくなってきている」と話す。
 そうした生活実感の悪化は日銀の9月の生活意識アンケートにも表れる。「ゆとりが出てきた」と回答した人から「ゆとりがなくなってきた」と回答した人の割合を引いた指数はマイナス54.3と、リーマン・ショックによる景気後退の影響があった2009年12月以来の低水準となった。

◆金利上昇を抑えようとすればまた円安

日本銀行(資料写真)

 日銀は今回の政策修正で長期金利の1%超を容認するものの、一定の水準を超えた場合や急速な場合は長期金利を抑えこむ方針で、大規模緩和は続ける方針は変えていない。このため、決定会合後に円相場は1ドル=150円超となり円安が進行した。熊野氏は「日銀が今後、長期金利が1%を超えて上昇する際に、容認する姿勢を示せば円安に歯止めがかかると思うが、金利上昇を抑えようとすれば円安が進行する」と指摘する。今回の微修正とも言える政策変更であいまいさを残した日銀。熊野氏は「日銀は積極的に円安を止めには動かなかった」と話した。

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