論説

【処理水海洋放出】負担の上積み許されず(8月23日)

2023/08/23 09:07

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 東京電力福島第1原発にたまり続ける処理水を巡って政府は、県内関係者らの反対が根強い中で24日の海洋放出開始を決めた。国民の理解も十分に深まっているとは言い難い。漁業をはじめ観光など幅広い分野への影響を懸念する声が上がるのは当然だ。県内関係者は廃炉を見据えて苦渋の判断を迫られた。政府は風評対策と漁業者支援を徹底、強化しなくてはならない。

 岸田文雄首相は22日の関係閣僚会議で「数十年の長期にわたろうとも処理水の処分が完了するまで政府として責任を持って取り組んでいく」と強調した。処分は現政権を起点に、後々の政権に引き継がれていくことになる。漁業者と交わした「関係者の理解なしにいかなる処分も行わない」との確約が守られたのかどうかは判然としない。処分と漁業者支援に対する首相の発言を口約束で終わらせないため、法制化を含めた持続可能な体制づくりを求めたい。

 処理水処分は廃炉を前進させる上で欠かせず、先送りできない問題ではある。同様に、海洋放出による新たな風評を防ぐ取り組みが極めて重要なのは言うまでもない。首相は関係閣僚会議で、漁業の継続を目的とした基金の創設などを確認した。風評による損害を適切に賠償し、漁業者らへの支援体制を構築する考えも示した。ただ、いずれも風評発生後の対策であり、未然に防ぐ対策にも万全を期してほしい。

 政府は、国民の理解醸成に向けた1500回を超える説明会で、処分方法に納得したとの声が多く聞かれたとしている。しかし、共同通信社が今月19、20の両日実施した全国世論調査で、政府の説明が「不十分」との回答は81・9%を占め、「十分」は15・0%にとどまった。一般消費者らの理解が深まっていない現実を映す結果と言える。放出開始後は、これまで以上に説明の場を設け、安全性の周知に努めるべきだ。

 海洋放出決定を受け、県内の市町村長から「農林水産業や観光業をはじめ、幅広い業種に対する風評対策を徹底してほしい」「国内外の理解醸成をさらに進めるべきだ」といった訴えが相次いだ。被災地への苦痛や負担の上積みは許されない。政府の姿勢をしっかり問い続けていく必要がある。(角田守良)