原発「60年超運転」法が成立 自公維国などが賛成 電力業界の主張丸のみ 福島事故の反省と教訓どこへ

2023年5月31日 18時22分
 原発の60年超運転を可能にする束ね法「GX(グリーントランスフォーメーション)脱炭素電源法」が31日、参院本会議で与党と日本維新の会、国民民主党などの賛成多数で可決、成立した。老朽原発の長期運転や原発産業への支援強化などが盛り込まれ、東京電力福島第一原発事故後に抑制的だった原子力政策の大転換となる。

◆運転延長の可否の審査 規制委から経産省に

 福島事故後に導入された「原則40年、最長60年」とする運転期間の規定は、原子力規制委員会が所管する原子炉等規制法から削除。経済産業省が所管する電気事業法に改めて規定された。最長60年の枠組みは維持しつつ、再稼働に向けた審査などによる停止期間を運転年数の算定から除外。その分だけ60年を超えた運転が可能になる。
 これまでは規制委が運転延長の可否を審査し認可していたが、今後は経産省が電力の安定供給に貢献するかなどの観点から審査し、認可する。具体的な審査基準は今後策定する。規制委は延長の可否の判断には関与せず、運転開始から30年を起点に10年以内ごとに劣化状況を審査。新規制基準に適合していなければ、運転を認めない。
 原子力利用の原則を示す原子力基本法には、原発活用による電力安定供給や脱炭素社会の実現に取り組むことを「国の責務」と明記。再生可能エネルギー特別措置法は、再エネの拡大に必要な送電網整備への支援強化が盛り込まれた。
 岸田文雄首相は昨年7月、原発活用に向け検討を指示。今国会に、原発と再エネという論点が異なる五つを束ねた法案が提出された。この手法には、31日の参院本会議の討論で、法案に賛成した国民民主党の礒崎哲史議員からも「政府の強引な進め方は遺憾」との批判があった。

◆選挙で問うこともなく 政策大転換を強行した岸田政権 

 【解説】国会が可決したエネルギー政策の束ね法案は、脱炭素社会の実現を名目にした原発産業の救済法だ。老朽原発の運転延長認可を巡り、規制当局の原子力規制委員会が原発推進官庁の経済産業省に権限を譲り渡した事実こそが、電力会社を保護する流れが強まったことを象徴する。東京電力福島第一原発事故で今も苦しむ被災者の思いをくみ取らず、事故の反省と教訓をないがしろにした。

40年超運転に入っている関西電力美浜原発3号機(手前)=2021年6月、福井県美浜町で、本社ヘリ「まなづる」から

 法改正の中身は、電力業界の意向に沿った。事故の翌年に導入された「原則40年、最長60年」とする運転制限は、業界団体の要望通りに延長できることに。原子力基本法には、業界側の主張を丸のみして原発への投資環境の整備さえも盛り込まれた。
 岸田文雄首相の検討指示からわずか10カ月。原発政策の大転換は今回の法改正でおおむね完成する。政府が想定していないとしてきた原発の建て替えにも踏み出す構えで、事故前の官民一体で原発を推進してきた構図に逆戻りしかねない。
 原発依存は一時的にはエネルギー価格高騰の抑制策にはなるのかもしれないが、核のごみの最終処分は解決の見通しはなく、膨大なコストと事故リスクを国民がこれからも背負うことになる。岸田政権は原発のデメリットに背を向け、きちんと説明することがなく、選挙で問うこともなかった。一方的に強行する政策決定は将来に禍根を残す。(小野沢健太)

 福島第一原発事故後の原子力政策 事故から1年半後の2012年9月、当時の民主党政権は「30年代の原発稼働ゼロ」の方針を掲げた。政権交代した自民党は、この方針を撤回。21年10月に閣議決定した第6次エネルギー基本計画では、30年度の原発比率20〜22%を目指すとした一方で、「可能な限り原発依存度を低減させる」と明記。原発の新増設、建て替え(リプレース)も盛り込まなかった。


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