米カンザス州、公的資金運用や政府契約でESG要因の考慮を制限・禁止する法が成立

(米国)

シカゴ発

2023年04月28日

米国カンザス州は4月24日、公的資金の運用や政府契約の締結を決定する際に、環境・社会・ガバナンス(ESG)要因を考慮することを制限・禁止する法を成立PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)させた。

同法は、州の公務員退職金制度において、加入者と受益者の経済的利益のみを考慮して資金運用すべきだとし、州がESGの基準を取り入れることや個人や企業に当該基準に従うよう働きかけることを制限している。また、州政府やその下位機関が政府調達などで企業と契約を締結する際に、ESGの基準に基づいて優遇措置を与えることや差別することを禁止している。同法は2023年7月1日から施行される。

同法は共和党が優位な議会で可決され、民主党のローラ・ケリー州知事は「同法案が州や地方自治体にとって不測の事態を招く可能性があることに懸念を抱いている」とし、署名をしなかったが、成立した(注1)。

米国では多くの共和党議員が、ESG要因を考慮に入れる投資戦略は、最大限のリターンを得ることよりも、政治的アジェンダを押し進めることに重きを置いていると主張している。今回の「反ESG法」の成立は、リベラルな価値観の実践に反対する保守派による働きかけの一環とみられており、モンタナ州やインディアナ州など少なくとも9つの州で同様の法律が制定されている(AP通信4月25日)。近年の米国でのESG原則の普及に対し、共和党は反発を強めており(2023年3月22日記事参照)、3月16日にはフロリダ州のロン・デサンティス知事(共和党)を含む19人の州知事が「全米におけるESGの普及は、米国経済や個人の経済的自由、生活様式に対する脅威」としESGの動きから個人を守るため、州や地方レベルでの投資決定においてESG基準を使用しないなど、州レベルの取り組みを主導するとの声明PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)を発表した。

一方、ESGを支持する投資家は、クリーンエネルギーの「強力な経済効果」を無視すれば、結果的により強い経済の構築に失敗すると主張している。米国のESG投資支援団体であるUS SIFによると、2022年初頭にはESGに関わる投資額は全体の運用資産総額のうち8兆4,000億ドルで、これは米国の投資専門家による運用資産額の13%に相当し、引き続き注目に値する分野だとしている。今後のESG投資の見通しについて、金融サービスのS&Pグローバルは、持続的なインフレと経済の不確実性に加え、訴訟リスクや最近の「グリーンハッシング」(注2)が課題となっており、2023年は企業の取り組みが試される年になるだろうと指摘している。

(注1)州議会で可決された法案は、署名のために知事に提出される。州法は、法案を送付した後、知事が署名または拒否権を行使するための一定の期間を定めている。法律で定められた期間が経過すると、知事の署名がなくても法案が成立することがある。

(注2)公開した情報に対するペナルティーを恐れて、企業がサステナビリティの目標や実践内容の詳細を公開しないこと。

(星野香織)

(米国)

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