国分寺の検査受けた94%が「健康被害の恐れ」の指標超え PFAS汚染の血液検査 立川も74%と高く

2023年6月8日 21時13分
 東京・多摩地域で水道水源の井戸水が発がん性の疑われる有機フッ素化合物(PFAS、ピーファス)で汚染されている問題で、住民の血液検査を実施した市民団体が8日、27自治体に住む650人分の分析結果を最終報告した。半数以上から、米国で「健康被害の恐れがある」と定められる血中濃度の指標を超過するPFASを検出。その上で、高濃度の住民は、米軍横田基地(東京都福生市など)東側地域に集中していることが鮮明になった。基地から漏出したPFASが地下水に入り込み、住民が水道を通じ取り込んだ可能性がある。(松島京太) 

◆高濃度「米軍横田基地東側」集中 地下水→水道の可能性

 調査は、市民団体「多摩地域のPFAS汚染を明らかにする会」と京都大の原田浩二准教授(環境衛生学)が実施。昨年11月から今年3月までに採血し、PFASの一種PFOS(ピーフォス)、PFOA(ピーフォア)、PFHxS(ピーエフヘクスエス)、PFNA(ピーエフエヌエー)の血中濃度の平均値や海外の指標を超えている人数を自治体ごとに分けて傾向を調べた。
 参加者全体の平均値は、4種合計で1ミリリットル当たり23.4ナノグラム。2021年度に環境省が実施した全国調査では同8.7ナノグラムで、約2.7倍となった。4種合計で米国の指標を超えた割合は51.5%だった。
 自治体別でみると、米国指標を超えた割合が最も多かったのは、ともに基地の東側にある国分寺市(94%)、立川市(74.5%)が続いた。多摩地域の地下水は西から東側に流れているとされ、住民の血液から高濃度で検出されたことと一致する。原田准教授は「横田基地が大きな汚染源になっていると考えるべきだ。地下水の汚染が関連しているのでは」と分析した。
 多摩地域のPFAS汚染を巡っては、基地内で10〜17年、PFASを含む泡消火剤が3000リットル以上土壌に漏出したと英国人ジャーナリストが報道。都水道局は19年以降、多摩地域の7市で水道水源の井戸34カ所をPFASの影響で取水停止にした。
 一方、基地から距離のある武蔵野市や西側のあきる野市でも比較的、高い血中濃度となったことについて、原田准教授は「基地以外の汚染源が潜んでいる可能性がある」と指摘した。
 調査では、住民に浄水器使用の有無も聞き取りし、「使用している」と答えたグループは、「使用していない」グループよりも、血中濃度が低かった。主な摂取経路が水道水となっている根拠とした。

◆国や都は汚染源や健康被害調査の責任を果たせ

血液検査の結果を報告する京都大の原田浩二准教授(左)=東京都立川市

 【解説】 市民団体による大規模な血液検査で、東京・多摩がPFASの深刻な汚染地域であることが明らかになった。国や都、住民が暮らす基礎自治体は今回の分析結果を重く受け止め、健康被害と汚染源を調べるため、それぞれの責任を積極的に果たすべきだ。
 最終報告によると、高濃度で検出された人が住む米軍横田基地東側の国分寺や立川など7市は、都水道局がPFAS汚染を理由に水源井戸の取水を停止した地域と重なっている。
 住民の生活の基盤となる水道水に含まれるPFASの指標について、国は暫定値を設定しているだけで、測定や運用は各自治体任せだ。取水を停止した都の判断は妥当としても、都は継続的に住民の血中濃度を調べ、取水停止が摂取対策に効果的かどうかを確かめる必要がある。
 また、深刻な汚染地域があることが判明した以上、欧米各国で取り組んでいるように、日本も国として健康被害の科学的知見を収集することが求められる。
 汚染源としては、横田基地が疑われている。英国人ジャーナリストの報道のほか、都が基地周辺で調査したデータでは、都内最高値の濃度が検出されており、米軍に対し説明を求める材料は既にそろっている。
 日米地位協定という「壁」はあるのかもしれないが、国や都は住民の命と健康を守るため、米軍に調査を求めることに及び腰になっている場合ではない。

 PFAS 泡消火剤やフライパンの表面加工などに使われてきた有機フッ素化合物の総称。約4700種類あるとされ、PFOSやPFOAなどは人体や環境への残留性が高く、腎臓がんの発症やコレステロール値上昇など健康被害のリスクがあるとして国際的に規制が進む。血中濃度の指標は日本にはなく、米国の学術機関とドイツの政府諮問機関は血液1ミリリットル当たりの指標値を設定している。米国では7種類のPFASの合計値が20ナノグラム超、ドイツではPFOSが20ナノグラム、PFOAが10ナノグラム以上で、健康被害の恐れがあるとされる。


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