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健康保険証の廃止 なぜ来秋にこだわるのか

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 国民の不安が広がっているにもかかわらず、なぜ期限にこだわるのか理解に苦しむ。来年秋に健康保険証を原則廃止してマイナンバーカードと一本化する政府の計画である。

 データのひも付けを誤るなどのトラブルが相次いだことを受け、8月上旬までに「総点検」の中間報告を公表する。だが、他人の口座に公金が振り込まれたり、医療機関の窓口で患者が支払う自己負担割合が誤って表示されたりするミスが新たに発覚している。

 参院特別委員会で行われた閉会中審査では、期限ありきの政府の姿勢に疑問の声が相次いだ。野党だけでなく自民党の議員も、柔軟に対応するよう求めた。

 河野太郎デジタル相は「さまざまな医療データを活用できる」とマイナ保険証の利点を強調した。一本化した後も最大1年間は現行の保険証が使えることを理由に、従来方針を堅持すると繰り返したが、なぜ来秋かという疑問には答えなかった。

 そもそも取得が任意のはずのマイナカードに保険証機能を持たせ、事実上義務化することには無理がある。登録手続きが難しい高齢者が取り残されてしまう。

 保険証の代わりとなる「資格確認書」を、申請がなくても「プッシュ型」で交付するというが、厚生労働省の担当者は対象者数や生じる費用を答えられなかった。

 一時しのぎの策を打ち出す政府に対し、自治体からは事務作業が追いつかないと悲鳴が上がる。

 混乱の発端は河野氏が昨年10月、「2024年秋に現行の保険証を廃止する」との方針を唐突に打ち出したことにある。にもかかわらず、ひも付けミスは自治体などの責任だと言わんばかりの発言が批判を浴び、総点検中の長期海外出張も問題視された。

 毎日新聞の世論調査では、マイナンバー制度に「不安を感じる」との回答が63%に上った。内閣支持率の下落は、この問題が影響したと指摘される。岸田文雄首相は深刻に受け止めるべきだ。

 マイナ制度は国民生活の利便性向上が目的のはずだ。不安や不信を払拭(ふっしょく)しないまま実施しては混乱を深めかねない。政府は保険証一本化の時期について、見直しをためらうべきではない。

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