限界が近い。待ったなしの気候変動対策、国や企業、そして個人がやるべきこととは

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NASAは、2023年の夏が「史上最も暑かった夏」であったと発表した。世界各地で山火事が発生し、熱中症患者は続出。その他にも豪雨や干ばつの増加、食糧不足など、気候変動によるさまざまな影響が世界中で懸念されている。日本でも今までにない暑さを経験し、この問題の深刻さを感じた人は多かったのではないだろうか。

そこで今回、日本気候リーダーズ・パートナーシップ(JCLP)共同代表の三宅香氏、衆議院議員国光あやの氏、スリーエム ジャパン社長の宮崎裕子氏による鼎談を実施。いま地球環境はどのくらい危機的な状況にあり、気候変動対策を進めるために国や企業、そして個人は何をするべきなのか。3人で語り合った。

※所属・役職はすべて記事公開時点のものです。

気候変動は「環境問題」の枠を超え、経済や安全保障の問題へ

ーー気候変動をはじめとする地球環境の危機について、どのように認識していますか。

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三宅香(みやけ・かほり)氏/日本気候リーダーズ・パートナーシップ(JCLP)共同代表。三井住友信託銀行 ESGソリューション企画推進部 フェロー役員。速やかな脱炭素社会への移行を通じて「1.5度目標」の実現を目指す、日本独自の企業グループJCLPの共同代表を務める。

三宅:2015年に採択されたパリ協定では、世界の平均気温の上昇を1.5度以内に抑えるという目標が掲げられました。それにもかかわらず、今世界の平均気温は1.1度まで上昇しており、異常気象による災害があらゆる地域で発生しています。

もしこのまま気温上昇が進めば、事態が深刻化することが科学的に明らかにされています。しかし、温室効果ガスの排出量がグローバル規模で減少する兆しはまだなく、大きな危機感を抱いています。

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宮崎裕子(みやざき・ひろこ)氏/1902年に米国で創業した世界的なサイエンスカンパニーである3Mの日本法人、スリーエム ジャパン代表取締役社長。自らを「Not the 社長 Type」と語るが、入社4年目で社長に就任して2年が経過。さらなる挑戦を続けている。

宮崎3Mが実施した調査(※世界の人びとの科学に対する意識調査「ステート・オブ・サイエンス・インデックス」2023年度)によると、日本人が1年前と比べて危機感を持つようになった環境問題のトップ3が「自然災害の激化」「極端な気温」「気候変動」でした。日本でも個人レベルで関心が高まるほど、気候変動は深刻な状況にあると捉えています。

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提供)スリーエム ジャパン

このまま事態が悪化すれば、企業活動にも影響が及ぶことは避けられません。事業所や工場が影響を受ければ、事業活動の継続が困難になりますし、そもそも企業として積極的にこの問題に対処しなければ、ステークホルダーからは「社会課題の解決に貢献している企業」として認められません。地球環境が危機的な状況に置かれている今だからこそ、企業には責任ある行動や発言が求められています。

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国光あやの(くにみつ・あやの)氏/衆議院議員 茨城県第6区選出。20代の頃、医師としてアフリカを訪れて深刻な干ばつを目の当たりにし、気候変動は最も立場の弱い人に影響をもたらすものなのだと知り、政治に関心を持つように。環境問題の影響を正しく把握するためには、グローバルな視点が重要だと感じると語る。

国光気候変動対策は、一言で言うと「待ったなし」。すでに課題認識はある程度共有されているので、今は各ステークホルダーの具体的なアクションが問われるフェーズに入っていると認識しています。

一昔前、環境問題は「意識高い系」と言われる一部の人たちの関心事でした。しかしここ10年でヨーロッパを中心に環境意識が高まり、金融機関の主導でゲームチェンジが進められてきた結果、気候変動問題は「環境問題」の枠を越え、経済や安全保障の問題として認識されるようになりました。日本の国会議員の多くも、気候変動対策に優先度高く取り組んでいます。

宮崎:「気候変動対策は待ったなし」はその通りですね。3Mとしては、サイエンスを駆使し、グローバルで包括的に地球環境を守っていくために、2つの軸で未来にコミットしたいと考えています。

一つ目の軸は、3Mの技術や製品を社外に提供する観点からの取り組みです。我々は現在、“3M Forward”と銘打って気候変動など世界規模で喫緊の課題となっているメガトレンドに対し、サイエンスの力を通じて環境や社会課題の解決に取り組んでおり、例えばガラス微小中空球からなる粉末状の添加剤「3M™ グラスバブルズ」は、自動車のパーツに添加することで軽量化・燃費の向上を実現するなど、サステナビリティに寄与する製品として活用されていますが、技術を活用した次世代の用途開発にも注力しています。また、2019年以降に開発を開始した新製品の100%にサステナブルな設計を含むことを必須としており、お客様にサステナブルな3M製品をお届けできるように努めています。

もう一つの軸は、自社における研究開発や製造過程についての取り組みであり、製品を生み出す製造過程においてもカーボンニュートラルや脱炭素への貢献を目指し、社内外のパートナーと協力のもと、グローバル規模で温室効果ガス(GHG)、水、廃棄物、エネルギーなどの削減に大きな成果を生み出しています。事業活動そのものが、気候変動対策を含むサステナビリティに繋がる仕組みづくりを、今後も継続していきたいと思っています。

気候変動対策と経済成長を、トレードオフの関係にしない

ーー地球環境が危機的な状況にある今、国や企業はどのような未来を目指さなければならないと思いますか。

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三宅気候変動対策と事業成長を、トレードオフの関係にしてはいけないと考えています。日本企業が環境対策に取り組んだ結果、日本経済がシュリンクするようなことがあってはなりません。地球環境を守りつつも自社の競争力を高め、日本経済の発展に貢献することが日本企業には強く求められています。

気候変動問題を背景に、今世界の産業構造は変わろうとしています。そのような時期だからこそ、日本企業は世界を引っ張っていくポジションに立つべきだと考えます。

国光:国は、2050年までにCO2排出量を実質ゼロにする「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」に基づき、経済産業省を中心にさまざまな政策を打ち出してきました。さらに、7月には「脱炭素成長型経済構造移行推進戦略」が決定し、脱炭素、エネルギー安定供給、経済成長の3つを同時に実現するべく取り組んでいます。

これらの戦略を実現するためには、ビジネスモデルや事業戦略の根本的な変更が求められる企業が少なくありません。これは一定の痛みを伴いますが、新しい時代をリードする企業になるチャンスでもあります。大きな投資やイノベーションを通じた企業の前向きな挑戦を応援していくことが、政府の役割だと認識しています。

ちなみに私の地元の茨城県では、猛暑によって農産物が被害を受け、漁獲量も減少しており、すでに気候変動の影響が現れています。次世代にサステナブルな社会を残すためには、国が企業や個人に対するあらゆるアシストを検討していかなくてはなりません。

宮崎:事業活動が地球環境に及ぼす影響が大きい企業は、特に脱炭素化へ真剣に取り組まなければなりません。3Mは「人びと、アイデア、サイエンス、その力を解き放ち、さらなる可能性を模索する」というパーパスを掲げています。私たちは人々の暮らしをより豊かにする土台づくりに取り組んでおり、気候変動対策もその中に含まれます。自分たちの技術を使ってさまざまな製品やソリューションを生み出し、それが世の中に認知されるよう、幅広く発信を行なっていきたいと思います。

「電力の脱炭素化」が日本企業の競争力を高める

ーー気候変動対策として、国や企業、そして個人はどのような行動を取るべきでしょうか。

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国光:マクロな観点からは、CO2排出に関する国際的なルール形成が重要です。世界のCO2排出量は、中国、アメリカ、インド、ロシア、日本の五カ国で全体の6割を占めており、日本は世界で五番目にCO2排出量が多い国です。まずはこれらの国が化石燃料を減らし、再生可能エネルギー中心の経済へ転換することが急務と言えます。

しかし今は、途上国にもエネルギー政策に本気で取り組んでいる国が多くあります。私は先日アフリカを視察した際、ケニアが火力発電を殆ど使用しておらず、電力は地熱や風力、バイオなどで賄っていることを知りました。先進国・途上国問わず、世界中が脱炭素化に向かっている今、日本はこの流れに乗り遅れてはいけません

三宅:日本企業が競争力を保つためには、「日本でものづくりをすると環境に良い状況」を作り出すことが大切です。つまり、いかに再生可能エネルギーの比率を高め、電力の脱炭素化を早く進められるかどうかが、日本経済活性化の鍵となります。

この点、中国はすでに30%超の電力を再生可能エネルギーで賄っており、日本よりも確実に先を行っています。電力の脱炭素化が進まなければ、日本で事業活動を行う企業が競争力を持つことは難しいでしょう。日本はこの現実を直視し、もっと焦って対策に取り組む必要があると思います。

宮崎:3Mは再生可能エネルギーの使用率を2050年までに100%にするという目標のマイルストーンにおいて「2025年までに50%にする」とグローバルで設定し、それを予定よりも2年早い2022年に達成しました。日本国内には5つの事業所がありますが、相模原事業所は2022年より100%再生可能エネルギーに切り替え、他の4つの事業所も現在移行に取り組んでいます。これらの取り組みを継続することによって、スリーエム ジャパンを含む3Mの国際的な競争力がより一層高まると考えています。

三宅:日本全体の競争力を高めるためには、広範なプレーヤーを巻き込むことが大切ですね。3Mさんのように大規模な投資が可能な大企業だけではなく、中小企業も気候変動対策に前向きに取り組めるようにするには、再生エネルギーを調達しやすい環境がもっと整備される必要があると思います。電力の脱炭素化は、そこまでできて初めて一つ上のステージへ進めるのではないでしょうか。

宮崎:さらに言うと、消費者としての個人にも気候変動対策の道筋を示すことが大切ですね。冒頭でご紹介した3Mの調査の2022年度版のデータでは、日本人は環境問題への意識は高い一方で、環境に配慮した行動を「一切していない」と回答した人の割合が調査対象17カ国中で最高値でした。さらに、気候変動の影響を軽減するための個人の取り組みを妨げているものとして「やり方が分からない」と回答した人の割合が37%と、グローバル平均よりも高い結果が出ています。

国光:脱炭素社会の実現に向けて個人ができる取り組みについては、環境省が「ゼロカーボンアクション30」としてリストアップし、公開しています。国はさまざまなインフルエンサーを活用して普及に取り組んでいますが、まだ人々の行動に結びついていないのだとすれば、行動につなげる工夫が必要だと思います。

また、せっかく企業や消費者が環境に良いものを選ぼうと思っても、価格が高かったり種類が少なかったりして、選びにくい状況を変えていく必要があります。国としては経済産業省を中心にGX(グリーン・トランスフォーメーション)戦略を推進しており、環境に優しい事業活動に挑戦する企業を後押しする補助金の制度などを整えています。今後こうした制度を活用する企業が増えることによって、脱炭素化のマーケットが成熟し、企業や消費者にとっての選択肢が増えていくことが求められています。

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宮崎:気候変動は一企業や一個人で解決できる問題ではないからこそ、各々がパートナーシップを組むことが重要です。3Mとしては国連気候変動枠組条約(UNFCCC)をはじめとして業界団体や非政府組織とのパートナーシップを結んでおり、日本においてもJCLPの正会員企業として政策提言活動を共に行うなど、私たちの立場から発信したり、課題を吸い上げて解決につなげたりという活動を続けていきたいと考えています。

また多くの人が自分ごととしてこの問題に向き合い、自分に何ができるかを考えられる機会を作りたいです。各々が自信を持って前向きに取り組むことができれば、パートナーシップのハードルが下がり、気候変動問題は一歩解決に近づくのではないでしょうか。

ーー今後に向けた意気込みをお聞かせください。

宮崎:3Mは世界規模でさまざまな社会課題の解決に取り組むサイエンスカンパニーであり、サステナビリティに関する3つのフレームワークのうちのひとつに「サイエンスで気候変動に貢献」を掲げています。気候変動の課題解決に貢献する取り組みとして、3Mはグローバルで他社と協業して新たな技術の開発を進行しています。私自身もサステナブルな未来に向けて考え続けていきたいと思います。


2023 3Mジャパングループ インパクトレポートについてはこちら

スリーエム ジャパンが発表した、気候変動に対する日本の意識調査の結果についてはこちら

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