岸田首相会見「来年夏には所得の伸びが物価上昇上回る状態に」

新たな経済対策の決定を受けて、岸田総理大臣は記者会見し、企業の賃上げ支援や所得税の減税などの一連の対策を通じ、来年夏には国民所得の伸びが物価上昇を上回る状態を確実に実現したいと強調しました。

この中で岸田総理大臣は「足元における最大の課題は、賃上げが物価上昇に追いついていないことだ。デフレから完全に脱却し、好循環を実現するには一定の経過期間が必要だ」と述べました。

そして第1段階として、年内から年明けにかけて、物価高に苦しむ低所得者などに緊急的な対応として給付を行い、生活を支えていく考えを示しました。

その上で第2段階として、来年春から夏にかけては、本格的な所得向上対策を進めるとして「まず来年の春闘に向けて、経済界に対して私が先頭に立って、ことしを上回る水準の賃上げを働きかける」と述べるとともに、中小企業の賃上げも全力で支援していく方針を示しました。

また経済対策の焦点となっている、1人当たり4万円の所得税などの減税について、扶養家族も含めて実施することに触れ「過去に例のない『子育て支援型』の減税で、子ども2人の子育て世帯は16万円の減税となる」と効果を強調しました。

そして「来年夏の段階で賃上げと所得減税を合わせることで、国民所得の伸びが物価上昇を上回る状態を確実に作りたい」と述べました。

また減税よりも、迅速に行える給付のほうが効果的ではないかという意見があることは承知しているとした上で「幅広い国民の所得を下支えする観点からは、来年夏のボーナスの時点で、賃上げと所得減税の双方の効果が給与明細に目に見えて反映される環境を作り出すことが必要だ」と述べました。

さらに今後の「防衛増税」との整合性については「まずは国民の暮らしを守るため成長経済を実現するための取り組みを先行させることが重要で、今回の減税と同時に防衛の税制措置を実施することは考えていない」と述べました。

また少子化対策を強化する財源をめぐり、政府が今後、幅広く負担を求めることを検討していることとの関係については「社会保障改革を進めることで実質的な国民負担の増加とならないよう検討していく。今回の所得税減税と矛盾するものではない」と説明しました。

このほか減税は、財政再建に逆行するとの指摘を念頭に「経済が成長してこそ税収も増え、財政健全化につながる。国民には、まず経済活性化という順番を理解してもらいたい」と述べました。

そして「『コロナ禍』への対応が一段落した以上、歳出構造を平時に戻していく方針は堅持する。今回の経済対策の策定にあたっても、あわせて5兆円の予備費を半減し、財源として活用する」と述べ、財政健全化にも配慮し経済対策を実施していくとして理解を求めました。

消費税減税「考えていない」

岸田総理大臣は記者会見で「消費税の減税は今は考えていない。また軽減税率制度は低所得者への配慮として導入された制度なので、廃止することは考えていない」と述べました。

その上で、消費税の納税額を正確に把握するための「インボイス制度」について「不安の声が中小企業や小規模事業者の中にあることは十分承知している。引き続き実施状況をフォローアップしながら不安の解消に向けてきめ細かく柔軟に対応していく姿勢は大事だ」と述べました。

財政黒字化へ「デフレ脱却できれば中長期的にプラス」

また「基礎的財政収支」を2025年度に黒字化する目標について「これまでの財政健全化目標の変更は考えていない。今回の経済対策で財政的に一時的なマイナスが生じたとしても、長年苦しめられてきたデフレからの完全脱却を成し遂げることができれば、中長期的に財政にとってもプラスになる」と述べました。

その上で「経済あっての財政だと申し上げてきた。経済を立て直し、財政健全化に向けても取り組んでいくという姿勢は、これからも徹底していきたい」と述べました。

解散・総選挙「考えていない」

衆議院の解散・総選挙について「従来から申し上げているように、いまは先送りできない課題に一意専心、取り組んでいく。それ以外のことは考えていない。経済に全力で取り組んでいきたい」と述べました。

憲法改正「より積極的な議論を期待」

憲法改正をめぐっては「最終的には国民の判断が必要な議論なので、国会における発議に向けて手続きをするためにも、より積極的な議論が行われることを期待したい。あわせて自民党総裁としては、党内の議論を加速させるためにメンバーや陣容の拡充など、覚悟や強い思いを形で示しながら議論を進めていくことに取り組んでいきたい」と述べました。

中国 日本産水産物の輸入停止 国際対応が重要

岸田総理大臣は記者会見で、中国が日本産水産物の輸入停止を続けていることをめぐり、WTO=世界貿易機関への提訴も視野に入れているか質問され「具体的に最もスピード感のある対応は何なのか、よく吟味しなければならない。ただ国際場裏の場をしっかり使って日本の考え方を示し、理解を広げていく方策も重要だということは間違いない」と述べました。

そして今後の日中関係について「APEC=アジア太平洋経済協力会議をはじめ、さまざまな日程の中で対話や会談は、今の時点では何も決まってはいないが、ハイレベルの対話も含め、意思疎通を緊密に図っていく姿勢は大事にしていきたい」と述べました。

“増税メガネ”承知 経済のためやるべきと信じるものやっていく

岸田総理大臣は記者会見で「インターネットなどで『増税メガネ』などと呼ばれて増税のイメージがついているがどのように感じているか」と問われたのに対し「『増税メガネ』などさまざまな呼ばれ方をされていることは承知しているが、どんなふうに呼ばれてもかまわないと思っている。国民のため、わが国の経済のためにやるべきと信じているものについて、これからもやっていくということに尽きる。政策の順番ややり方などを工夫しながら、やるべきだと自分が信じることについて決断し、実行していく姿勢はこれからも大事にしていきたい」と述べました。