Henry Kissinger Meets Li Shangfu
by Stephen Roach
2023年7月18日、ヘンリー・キッシンジャーは北京で中国の国防相、李尚福と会談した。この会談は5月末にシンガポールで開催されたシャングリラ・ダイアログ安全保障フォーラムの合間に米国防長官、ロイド・オースティンとの会談を拒否したのとは対照的だった。当然のことながらその出来事は2月初旬におきたバルーン危機の最中に李がペンタゴンの担当者からの電話に応じなかったことに続くものだった。
もちろんキッシンジャーは中国で特別待遇を受けており、米中関係の現代的な枠組みを確立する上で決定的な役割を果たしたのだから当然である。私はキッシンジャー博士が登場する中国のイベントに偶然参加した際、何度かその待遇を目の当たりにしている。中国人にとって、キッシンジャーは単なる “旧友 “以上の存在であり、中国でヘンリー・キッシンジャーは究極のロックスターなのだ。
数年来、キッシンジャーは米中関係の憂慮すべき状況に大きな懸念を表明してきた。遡ること2019年末、彼は米中がすでに「新たな冷戦の麓」にあると警告した。その後4年間の紛争激化の軌跡を考えると、彼の懸念には新たな緊急性がある。今週の李尚福との会談の中国側の要約ではキッシンジャーはこう述べたとされている。「米国も中国も、相手を敵対視する余裕はない。もし両国が戦争になれば、両国民にとって意味のある結果にはつながらないだろう。」
中国側からすれば、李が自分と同等の米国高官と会おうとしないことになんの秘密もない。李商福は2018年、中国の中央軍事委員会の装備開発部(EDD)部長として武器調達を指揮する元職務で果たした役割により、米国政府から個人的に制裁を受けた。EDDと李は、ロシアの主要武器輸出企業であるロソボロネクスポートから戦闘機とミサイル防衛システムを2017年に購入したことで制裁を受けたのである。問題の取引がなされたのは、米国が中国との貿易戦争を始める1年前、ロシアがウクライナと違法な戦争を始める5年前であった。
私が今週のフィナンシャル・タイムズで書いた通り、外交はしばしばプライドを優先させ、より現実政治的な考慮よりも面子の問題によって行き詰まることがある。これはその典型的な例だ。中国側は、既に時代遅れとなった過去の違反に対して個人制裁を維持し続ける米国政府の高官と中国の国防相が会談することは適切ではないと感じている。米国側は中国の懸念を軽んじ、制裁を受けた外国の高官が米国政府の高官と会うことはたいしたことではないと主張している。
実政治のグランドマスターであるヘンリー・キッシンジャーは、今週の北京での李尚福との会談で米国の立場の不合理さを強調した。貿易戦争と技術戦争は別の問題だが、冷戦の戦士であるキッシンジャーはよく知っているように、冷戦が熱戦に転じないようにあらゆる努力が払われるべきなのだ。李尚福に対する個人制裁を解除することは、軍事的リスクを和らげるための重要なジェスチャーであるだけでなく、対立する二つの超大国間の信頼を回復するための真のオリーブの枝となり得るだろう。
Links:
{2} https://www.theguardian.com/world/2023/jul/18/henry-kissinger-meets-china-defence-minister-beijing
{3} https://www.washingtonpost.com/opinions/2023/06/05/sanctions-treasury-backfiring-china-russia/
{5} https://www.ft.com/content/92728c53-839f-4d7e-870e-5758a5283a83