岸田首相の記者会見 報道機関によって質問指名数に大きな差があるのはなぜか

2023年7月30日 06時00分

記者会見する岸田首相=6月13日、首相官邸で

 岸田文雄首相が官邸で行った記者会見で、官邸側に指名されて質問した回数を本紙が集計したところ、報道機関によって大きな差があることが分かった。官邸の記者クラブ「内閣記者会」の常勤19社では、最も多く質問できた社と最も少なかった社の差は3倍以上あった。質問は官邸側に指名されなければできない。官邸側は質問回数に差をつけている理由を説明していないが、識者は「恣意しい的な差配や選別が行われている可能性がある」と指摘している。(金杉貴雄)

◆最多は13回、最少は4回で3倍以上の差

 首相は2021年10月の政権発足以来、官邸エントランスでのぶら下がり取材や外国首脳との共同会見以外に、官邸の記者会見室での単独の会見を21回行っている。会見は通常、首相の冒頭発言に続き、内閣記者会の幹事社が代表して質問。続いて、質問を希望し挙手した記者から内閣広報官が指名する。
 本紙は21回の会見について、内閣広報官に指名されて質問できた回数を報道機関ごとにまとめた。
 内閣記者会の常勤社は新聞、テレビ、通信社の計19社。このうち指名が最も多かったのは産経新聞で13回。NHKの12回、日経、読売、毎日、朝日の各新聞とフジテレビの9回と続いた。最も少なかったのは東京新聞・中日新聞とTBSの4回。指名が多い2社と少ない2社では3倍以上の差があった。
 幹事社質問を含めた回数では、NHKが最多の15回。次いで産経新聞と日経新聞が14回。最少は北海道新聞の5回だった。また、今年開かれた4回の会見では、常勤19社のうち毎日新聞と朝日新聞、東京新聞・中日新聞の3社は1度も指名されていない。

◆官邸報道室「なるべく広く質問を受けるように努めている」

 首相の会見は不定期。内閣記者会の規約では「記者会見などを主催する」としているが、官邸報道室は「実態としては政府が主催していると考えており、司会は内閣広報官が行っている」としている。
 本紙は質問の指名回数に大きな差をつけている理由を文書で尋ねたが、官邸報道室は直接答えず、「なるべく広く質問を受けるように努めている。挙手の状況、内閣記者会と外国プレス、フリーランスなどのバランスを勘案し指名している」と答えるにとどめた。

 内閣記者会 別名永田クラブ。現在は国内100社が正会員として加盟。うち常勤は19社で、新聞が11社、テレビが6社、通信が2社。常勤社は2カ月交代で幹事を務め、記者会見や発表などについて官邸などと連絡・調整に当たる。報道機関側の要望を伝え、申し入れなども行う。他に国内外83社のオブザーバー会員も加盟。官邸での首相会見は、新型コロナの流行時は常勤19社1人ずつとフリーランスなど10人に限定されたが、5月からは一部緩和され、常勤19社1人ずつと、他に29人が参加可能となっている。

◆多様性反映せず「知る権利」損なう 山田健太・専修大教授

専修大の山田健太教授

 数字を見れば、質問の指名をされた報道機関に偏りがあるのは明らかで、恣意しい的な差配や選別が行われていると受け止められる。指名と進行を官邸側が行っている現状では、公平性を保つことは最低限のルール。質問できない媒体の読者や視聴者の知る権利を損なうことにもつながっている。
 最も問題なのは、記者会見の主導権を官邸側が100%独占し、誰が質問できるかを決めていることだ。このことで事前に質問を出させ、判断材料にして指名する報道機関を決めることもできるし、実際そうしているとの指摘もある。
 記者会見は、政治家や政府が社会的義務として国民に考え方を示す場だ。さまざまな報道機関や記者が質問することで、社会の多様な考え方を反映した質疑になる。そうでなければ国民の知る権利を阻害する。メディアの選別やその意思があるなら大きな問題だ。
 首相以外の大臣や首長の記者会見では、大臣らが記者を直接指名している。首相会見では内閣広報官が指名しているが、周囲がおもんぱかって首相を守っているような形で行われているのは極めて残念で、国民全体にとって不幸だ。
 記者会側も、記者が司会する方式に変更するなど、恣意的な質問指名や多様性を阻害することを改める努力をすべきだ。官邸側が応じなければ、極端な例では質問者を記者会側でくじ引きなどで決めてしまうこともできる。偏在があった場合は、メディア側が対抗措置を取り、おかしいと抗議することが大事だ。

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