他人のマイナ保険証 顔写真かぶったら使えた…「なりすましできてしまう」医師懸念【実験動画】

2023年8月2日 20時01分
 「これでは、なりすましもできてしまう」―。長崎市の内科医院院長(67)が2日、自らの顔写真をお面のようにかぶった女性スタッフに自分のマイナ保険証を使ってカードリーダー(読み取り機)で顔認証を試みたところ、あっさり認証され、その後の手続きに進めてしまった。院長は警鐘を鳴らすためにもその一部始終を動画に収めた。(長久保宏美)

◆まさかと思ってやってみたら…

 本紙は同院長から動画を入手した。動画には、ほぼ実物大の院長の顔写真コピーを顔にかざした女性スタッフが、院長のマイナ保険証を読み取り機に置き、顔認証のために顔を画面に近づけたところ認証された様子が収められている。
 院長によると、オンライン資格確認システムで導入したカードリーダーによるトラブルは「マイナ保険証を使う患者さんが少ないのでほとんどなかった」。ただ「もしかしたら、(なりすましを含め)みんな認証してしまっているかもしれない」と顔認証の精度に疑問を持ち、実験してみたという。
 院長は「まさかと思ってやってみた。もともと、地元の患者さんしかこないので、保険証はあるし、カードリーダーの顔認証に必要性は感じていない。リーダーのメーカーや業者に特に連絡はしていない」と話している。
 読み取り機は「Caora」という機種でコンピュータ関連メーカーの「PFU」(本社・石川県かほく市)が製造、富士通Japanが販売している。富士通Japanの広報担当者は本紙の取材に「詳細が分かりかねるので当社としてはコメントを控えさえていただきたい」と述べた。
 この読み取り機の操作マニュアルに記された「免責事項」には「なりすまし防止機能」について、「人工知能(AI)により写真や免許証、スマートフォンに表示された顔画像を使ったなりすましの可能性が高いと判定された場合に、顔認証を実施しない『AI偽造検知』です」と説明。その上で「簡易的な機能のため、写真や免許証、スマートフォンなどによるなりすましを完全に防止できない場合があります」と記されている。
 政府は現行の保険証からマイナ保険証への切り替え理由に「不正利用」の防止を挙げている。
 厚生労働省は1日に行われた立憲民主党のヒアリングで、今の保険証の不正利用について「市町村国民健康保険において、過去5年間(2017〜2022年)に、少なくとも50件ある」と文書で回答しているが、同党の杉尾秀哉参院議員は「それ以外の全体の不正利用件数を出せと言っても数字を出さない。マイナ保険証で本当になりすましを防げるのかはなはだ疑問だ」と話している。

 顔認証付きカードリーダー  マイナンバーカードの保険証情報を読み取る「オンライン資格確認」のため、医療機関に今年4月から原則設置が義務付けられた。政府はオンライン資格確認によって、医療機関・薬局での診療情報や薬剤情報、医療機関などに支払った医療費の情報などを専用サイト「マイナポータル」で確認できる、とその利便性を強調するが、全国保険医団体連合会(保団連)が今年6月に実施した調査では、導入した医療機関の約5割で不具合やトラブルが発生していることが明らかになっている。


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