がんと言われその足でジムに 「ゲラゲラポー」motsuの転換点

がんとともに

聞き手・熊井洋美
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 人気アニメ「妖怪ウォッチ」(テレビ東京系)のオープニング曲「ゲラゲラポーのうた」で話題を集めた音楽ユニット「キング・クリームソーダ」のメンバー、motsuさんは、3年前、中咽頭(いんとう)がんと診断された。初期だったため術後まもなく復帰、現在も精力的に制作活動を続けるmotsuさんは、検診や早期発見の大切さを訴える。

 ――体の異変にどうやって気づきましたか。

 のどちんこ(口蓋垂、こうがいすい)がちょっと硬くなってるな。年齢のせいかな、老化かな。

 3年前にふと感じました。声に変化はないのですが、歌っていると微妙な違和感がある。痛くもかゆくもないんですけど、何か心にひっかかりました。

 数カ月前にたまたま受けた民間のがん検査キットの結果が頭によぎりました。「ハイリスク」との結果が出ていたのに、「酒の飲み過ぎかな」として放ったらかしでした。

 この二つのきっかけがあって、「いちおう診てもらおう」と、近所の耳鼻科クリニックに行くと、医師がのどの奥をのぞいて「あらあら!」と声をあげた。すぐに大きな病院に行きなさいと言われました。

「世界が真っ暗に」

 ――診断をどのように受け止めましたか。

 疑いの段階では、「まあ、違うだろう。がんじゃないだろう」と楽観的でした。

 総合病院で精密検査を受けて、「がんです」と診断結果を言われた瞬間、スーッと血の気がひいて、世界が真っ暗になりました。

 真っ先に家族のことを考えました。

 「もう会えなくなるんだ」。医師の声が耳に入ってこなくなりました。

 ぼうぜんとしながら診察室を出た後に看護師さんが僕の気持ちを聞き取ってケアしてくれました。メンターになってくれて、「頑張ろう」と思いました。

 心の平静さを保つために、その足で病院の隣にあるジムに行きました。「普通のこと、いつもやってることをしよう」と。

小児がんチャリティーライブに出演

motsuさんは15日に無料配信される小児がん支援のチャリティーライブに出演予定。詳細は後段に。

術後に「鼻声が残る」

 ――治療はどのようにされましたか。

 腫瘍(しゅよう)を切除する手術を勧められ、リスクが伴うことも聞きました。術後に「鼻声が残る」といわれました。セカンドオピニオンをとり、「鼻声が残らない」といわれた病院で手術を受けました。初期のステージ1でした。

 がんを切除しただけで、放射線治療化学療法もせずに、もう丸2年が過ぎました。

 ――入院生活はどうでしたか。

 10日ほどの入院でした。前の日まで筋力トレーニングに行って、術後も4日目から動けるようになり、廊下で出来る範囲のスクワットをやってました。看護師さんたちは笑ってました。

 いまは3カ月に1度、定期的にチェックを受けています。懸念していた鼻声にはならず、むしろ、音域がちょっと広がったように感じています。

 ――もともと健康に気を使っていましたか。

 30代半ばまでは1日3箱吸うチェーンスモーカー。お酒もすごく飲んでいて、長生きしないだろうと思いながら暮らしてましたが、誕生日をきっかけにたばこをやめました。

 ガリガリだったのが、甘い物を欲するので太りだして。人前に出る職業で、肉体が衣装みたいなものですから、「食べるんだったら、動こう」と運動を始めたら楽しくなって。ジムに行ったり歩いたりして。

 お酒はやめていなかったのですが、健康を維持しながらの十数年だったところへの、がん診断でした。

生まれ落ちた意味を考える

 ――診断の前と後で、意識は変わりましたか。

 自分にとって、今回、診断を受けてよかったことの一つは「あ、死ぬんだな、いつか」と、死を眼前に考えられたことです。

 自分が生きていた意味、生まれ落ちた意味、みたいなものを考えました。

 健康な人がおじいちゃんになって振り返るんだと思いますが、それが割と早めにできた。得がたい時間を、誰よりもかみしめています。

 「いつかやろうかな」と先延ばしにしていたことを、「やれるなら今やろう」と気づけました。

 若い頃にやってみたいと思っていた「プログラミング」を独学しました。

 昔から興味があったんですけど、「自分みたいな不良がパソコンに興味あるってどうなんだ」「友だちにバカにされるかな」って、どうしようもない理由で、関心を封じ込めていたんです。

 「やり残したことはないか」考えたときに、「プログラミングだ」と思って、イチから勉強しました。個人開発のゲームをリリースしましたよ。学び直せることが、すごくうれしいんです。生涯学習としてやっていこうかなと。がんになってなかったらやってないです。

「いかに早く見つけることが大事か」

 ――昨年末にがんを公表されたそうですね。

 本当は、世間に言うほどのものでもないかな、と思っていました。でもよく考えたら、世の中のことを考えたら、自分の体験を伝えることは意味があることだと感じました。

 僕の場合は、ごく初期だったので、幸運だったのですが、これが進行期だったら……。

 「気がついたときには遅かった」とか、「抗がん剤がつらくて治療をやめる選択をした」という人が親しい仲間でいました。

 でも、どんなに仲の良い友だちが経験しても、いざ自分の身に降りかかってこないと、自分事としてとらえるのは難しかったです。

 いかに早く見つけることが大事か、身にしみてわかりました。検診や人間ドック、検査などはぜひ受けてほしいと思います。

 ――国際小児がんデーの15日、無料配信されるチャリティーライブにも参加するとのこと。コロナ下での活動や、今後の活動は?

 昨年はDJ KOOさんと声優の芹澤優さんと組んでアニソンをリリースし、オーガナイザーとしてアニソンとクラブの融合イベント「アニレヴ」もやりました。

 現在はプログラミングでの学びも生かして、メタバース上で音楽活動をする仕掛けを作っています。

 「ゲラゲラポーのうた」はいまも多くの子どもたちに親しんでもらっていますが、早くコロナが収まってイベントなどで子どもたちに会いたいです。握手すると不思議なパワーをもらえるんです。

15日にオンライン無料ライブ

 小児がんの子どもや家族を支援しようと、国際小児がんデーの15日午後5時から、チャリティーライブ「LIVE EMPOWER CHILDREN 2022 supported by 第一生命保険」がオンラインで無料配信される。

 motsuさんが所属するキング・クリームソーダのほか、倖田來未や東京スカパラダイスオーケストラ、TRF、Da-iCEなど12組のアーティストが出演。今年で3回目で、一般社団法人「Empower Children(EC)」と朝日新聞社が共催する。

 他の出演者は、lol(エルオーエル)、JamFlavor、超ときめき♡宣伝部、BUDDiiS、ハラミちゃん、ピコ太郎、moumoon。

 寄付を募り、小児がん拠点病院や支援団体に贈る。YouTubeやABEMAなどによる生配信のほか、アーカイブ配信も予定。詳細は公式サイト(https://empower-children.jp/lec/別ウインドウで開きます)で。

チャリティーオークションは21日まで

 プロジェクトの一環で、15日から21日までの7日間、ヤフー株式会社が運営するネットオークション「ヤフオク!(https://auctions.yahoo.co.jp/recommend/topics/20220209/0000/別ウインドウで開きます)」では、小児がん治療支援の基金を募る「パワー・オブ・エンパワーメント チャリティーオークション」が開催される。

 宮本亞門、板野友美、TRFのSAM・DJ KOOら、企画に賛同した多数のアーティストがサイン入りグッズなどを出品。売り上げは全額が小児がん治療団体への寄付やがん早期発見の啓発活動に活用される。

 出品者は次の通り。

 與真司郎(AAA)、石井正則、板野友美、伊藤一朗(Every Little Thing)、伊藤かずえ岩井志麻子、上原りさ、大和田伸也、倉本美津留、小島よしお後藤真希、SAM(TRF)、湘南ベルマーレ選手一同、杉本和隆、鈴木亜美、高野洸、高橋ひとみ、DJ KOO(TRF)、パンツェッタ・ジローラモ、ヒカル、藤田菜七子、ホリ&沙羅、槙野智章宮崎美子、宮本亞門、motsu、ロメロ・ブリットほか(敬称略)。(聞き手・熊井洋美)

 motsu(モツ) 22歳で渡米し、ラップとダンスを独学で学ぶ。1990年にダンスミュージックユニット「MORE DEEP」のリーダーとしてデビュー。ラップ、ダンスミュージック、アニメソングなど多彩なジャンルで活動し、V6や倖田來未ら様々なアーティストに楽曲や詞を提供。

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